激しい雨と、傘の「縫い目」のあいだで。

梅雨の終わりが近づくと、バケツをひっくり返したような激しい雨に出会うことが多くなります。私たち傘の設計に携わる者にとって、この時期は特別な緊張感に包まれる季節です。お客様から「傘から雨が漏れてくる」というご相談をいただくことが増えるからです。
せっかく雨をしのぐために傘をさしているのに、内側に水滴が落ちてくる。そのときのがっかりしたお気持ちを思うと、本当に申し訳ない気持ちになります。
しかし、その「雨漏り」が製品の不具合であるかどうかは、実は非常に判断が難しいグレーゾーンにあります。なぜなら、傘は「針と糸」で生地を縫い合わせて作られている「縫製品」だからです。
雨が漏る、という現象の背景
どれほど撥水性・防水性の高い優れた生地を使っていても、針が生地を突き刺した「縫い目」には、目に見えないほどの小さな隙間が存在します。通常の雨であれば生地の張りと糸の膨張によって雨水の侵入を防げますが、激しい雨量になると、その微細な隙間から水がにじみ出てしまうことがあるのです。
傘業界には、製品の品質を測る「漏水性(ろうすいせい)」という検査基準があります。これは「1時間に20mmの雨」の環境で、傘の内側に水が漏れてこないかを調べるものです。業界では、これを超える雨を「強い雨」と定義しています。
<検査ではこのような雨の勢いで実施される>
実は、お客様から「雨が漏れた」とお預かりした傘を専門の検査機関でテストしても、結果は「異常なし」と判定されることが少なくありません。現在の技術において、針と糸で縫製する以上、あらゆる豪雨を完全に防ぐことは難しいのが現状です。
シャワーの水圧という盲点
よく「自宅のシャワーを当てたら水が漏れた」というお声をいただくことがあります。お気持ちはとてもよく分かるのですが、実はここに大きな盲点があります。
一般的な家庭用シャワーの水圧は、実際の雨とおよそ20倍から60倍の差があり、シャワーの勢いや当てる距離によっては100倍近くに達することもあります。そのため、シャワーを当てて水が漏れたとしても、それがすぐに不良品であるという断定はできません。
雨の季節を、すこやかに過ごすために
傘の特性を知り、ほんの少しのケアをすることは、雨の日の外出を快適にするヒントになります。激しい雨の季節を乗り切るために、以下のポイントを意識してみてください。
- 折りたたみ傘の場合は、先端の「石突(いしづき)」に緩みがないかチェックする(緩みがあると、そこから雨が伝って漏れる原因になります)
- 生地が乾かないうちの再使用を避ける(水分を含んだ生地は一時的に撥水が弱くなっており、水を吸い込みやすいため、雨が漏れやすくなります)
- 「激しい雨の日は、縫い目から少し水がにじむことがある」と知っておく
私たちは、どんな雨にも耐えうる美しい傘を目指し、日々設計の改良を続けています。傘の構造を正しくご理解いただくことで、雨の日を過剰に心配することなく、お気に入りの一本と心地よく過ごしていただければ幸いです。
