精密な機構を守る「所作」。自動開閉傘を故障させないための知恵。

雨の日の街角、片手に荷物を抱えながらボタン一つで傘を広げる。自動開閉傘がもたらすこのスムーズな体験は、一度味わうと手放せないものです。

しかし、そのスマートな動作の裏側には、緻密に計算された機械仕掛けの宇宙が広がっています。複雑な機構ゆえに、「急に動かなくなった」というお悩みも少なくありませんが、実はその原因の多くは、私たちが無意識に行っている「ある動作」にあります。今回は、自動開閉傘を長く愛用するための正しい「所作」についてお話しします。

故障原因の最多は「無意識の手動操作」

自動開閉傘の故障理由として圧倒的に多いのが、傘を閉じる際に、ボタンを使わず「手動の折りたたみ傘と同じように手で引き下げてしまう」ことです。

長年、手動の傘を愛用してきた方にとって、傘を閉じるときにスライダー(下ろくろ)を掴んで引き下げる動作は、体に染み付いた習慣かもしれません。しかし、自動開閉傘の内部には、開閉を制御するためのワイヤーや強力なスプリングが張り巡らされています。

ボタンを押さずに無理やり手で閉じようとする行為は、いわばロックがかかった機械を力任せに動かすようなもの。内部のワイヤーが切れたり、リンク機構が破損したりする致命的なダメージに直結します。「傘を閉じるときも、まずは指先でボタンを押す」。この一呼吸を置くことが、傘の寿命を延ばす最大の秘訣です。

確実なロックが「次の開く」を支える

ボタンで親骨を畳んだ後は、中棒(シャフト)を収納する工程に移ります。ここにも大切なポイントがあります。

手のひらでハンドルの底と傘の先端(石突)を挟むようにして、一気に押し込んでください。途中で力を緩めず、「カチッ」と音がしてロックがかかるまで確実に縮めきることが重要です。この押し込む動作によって、内部のメインスプリングが再び圧縮され、次の「自動で開く」ためのエネルギーが蓄えられます。

また、冬場や長期間使わなかった後は、内部の潤滑油が硬くなり動作が鈍く感じられることがあります。その場合は温かい部屋に置き、バネをウォーミングアップさせるイメージで数回開閉を繰り返してみてください。本来の軽快な動きが蘇ります。

陰干しという、最も簡単なメンテナンス

精密な機構を持つ自動開閉傘にとって、サビは天敵です。内部のスプリングやワイヤーにサビが発生すると、ボタンの反応が悪くなる原因となります。

使用後は、できるだけ早く風通しの良い場所で陰干しをしてください。完全に乾いてから畳む。このシンプルな「ひと手間」が、内部の金属部品を守り、驚くほど長く傘の健康状態を保ってくれます。

道具の仕組みを理解し、その特性に合わせた手順で扱う。その意識ひとつで、自動開閉傘は期待に応え続けるタフな道具へと変わります。


アンベル株式会社 CEO

執筆者:辻野義宏

30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。