
完璧な撥水への自負と、無視し続けてきた要望
「アンベル公式の傘ケースを作ってほしい」——これまで、驚くほど多くのお客様からこの声をいただいてきました。しかし、私は頑なにその要望を無視し続けてきたのです。理由は明白でした。私は傘の専門家ではありますが、バッグやポーチの縫製については門外漢です。そして何より、「傘自体の撥水性が完璧であれば、ケースなどそもそも不要である」という、作り手としての強い自負があったからです。
しかし、その考えを根本から変えざるを得ない事態が訪れました。世界的なPFAS(有機フッ素化合物)規制の波です。
環境規制という転機、そして突きつけられた現実
これまで傘の撥水を支えてきた強力な「C8撥水剤」が、環境負荷の観点から姿を消しました。現在はPFOAフリーの「C6」、さらにはフッ素を一切使わない「C0」へと移行しています。正直に申し上げましょう。環境に配慮した撥水剤は、従来のC8ほどの持続性を保つことが極めて難しいのです。「傘だけで解決する時代は終わった」。私はそう痛感し、理想を追い求めるだけでなく、今の時代に即した「快適さ」を模索し始めました。
専門外への挑戦と、マニアックな仕様の取捨選択
開発にあたって目指したのは、アンベルらしい「ミニマルな機能美」です。傘のプロとして、バッグの中で嵩張るような厚手のケースは作りたくありませんでした。極限まで薄く、かつ防水性の高い生地を選定。あえて複雑な防水仕様は避けました。
例えば、縫い目については完全な浸水防止(シームテープ加工など)を施していません。あえてそこを追求せず、針穴からの多少の漏れは許容しつつ、その分「毎日持ち歩きたくなる薄さ」と「手に取りやすい価格」を優先しました。その代わり、濡れた傘を素早く収納できるWファスナーや、バッグの外側に吊るせるDカン、カラビナなど、実用性には徹底的にこだわっています。
雨の日を、もっと軽やかでスマートな日常へ
このケースは、理想と現実の狭間で葛藤した末に辿り着いた、現時点での最適解です。バッグの中の書類を濡らす心配もなく、電車やお店でもスマートに振る舞える。そんな当たり前の快適さを、傘のスペシャリストとしてお届けしたかったのです。
「傘を畳んだその瞬間から、また自由になれる」。このアンブレラケースが、あなたの雨の日をより快適なものに変えることを願っています。