てのひらサイズの工学。5段以上のコンパクト傘が硬い理由。

現代のバッグの小型化に伴い、スマートフォンと変わらないサイズまで収まる5段以上の「コンパクト傘」は、もはや生活の必需品と言えるかもしれません。最近では6段7段といった、さらに極小を極めたモデルも登場しています。しかし、その利便性と引き換えに、多くのユーザーが直面するのが「開ききる最後の瞬間の重さ」です。

実はあの抵抗感は、多段構造という極限の携帯性を実現したからこそ発生する、純粋な物理現象です。今回は、その「硬さ」の正体を工学的な視点で紐解きます。

幾何学が生む、力の変換効率の壁

傘を開く動作は、中棒を押し上げる「タテの力」を、骨の関節(リンク機構)を通じて、生地を広げる「ヨコの力」へと変換する作業です。

5段以上の「コンパクト傘」の場合、限られた収納空間に収めるために、骨の構造が非常に複雑になっています。開ききる直前、骨の角度が水平に近づくほど、押し上げる力は「広げる力」に効率よく変換されなくなります。これは、腕立て伏せで肘を伸ばしきる直前が一番キツいのと同じ原理です。構造上、最も力が必要な瞬間に、最も力が伝わりにくい角度になる。これが「最後のひと押し」が重くなる第一の要因です。

増大する関節数と「生地の張り」の相関

多段式の傘は、中棒や骨がいくつも分割されています。これは、一般的な傘よりも圧倒りに関節(可動部)が多いことを意味します。

傘を開く動作の終盤では、生地をピンと張るための「張力」が最大になります。この強いテンションが複雑な骨格全体にかかると、数十箇所に及ぶ関節部分に強烈な圧力が加わります。この圧力が各部の摩擦を一気に増大させ、最後の数センチを動かすための大きな壁となるのです。さらに、生地に「100%遮光」を叶える多層コーティングが施されている場合、生地自体のハリやコシも、この手応えに影響を与えます。

携帯性という究極の価値を守るために

最後の関門は、ロック部品である「はじき」のバネを乗り越える瞬間です。非効率な角度、ピークに達した生地の張り、そして関節数に比例して増えた摩擦。これらすべての抵抗に打ち勝って、初めて「カチッ」という小気味よい固定音が響きます。

この手応えは、驚異的な短さを実現するための設計上の選択、いわば機能のための「対価」でもあります。私たちは、この物理的な特性をふまえ、低摩擦素材の採用やパーツの微調整を重ねることで、機能美と使い心地の境界線を追求し続けています。5段以上の「コンパクト傘」の最後の一押しに込める力は、携帯性を極限まで高めた道具を使いこなす、知的なプロセスのひとつと言えるかもしれません。


アンベル株式会社 CEO

執筆者:辻野義宏

30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。