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こんにちは。「umbrella-store ブログ」執筆者の辻野です。
さて、前回の記事「バッグが小さい派必見!コンパクト折りたたみ傘の「本当の使い勝手」を徹底解説」では、コンパクト折りたたみ傘(4段式以上)のメリットと、構造的なデメリットの一つとして「傘を開ききる最後の瞬間に力が必要」という点をご紹介しました。
多くの方が「あ、それ感じたことある!」と思われたかもしれません。 実はあの「硬さ」は、製品の不良や欠陥ではなく、コンパクトな設計だからこそ発生する物理的な現象なのです。
今回は、その「なぜ?」を少しマニアックに、しかし分かりやすく解説します。
ユーザーの皆様が「硬いな」と感じる、あの最後の「カチッ」までの瞬間。 あの時、傘の内部では大きく分けて3つの力が、あなたの「押す力」に対抗しています。
いきなり難しい言葉が出ましたが、これが最も大きな理由です。
傘が開く仕組み: 傘は、あなたが「下ろくろ」を押し上げる「タテの力」を、骨(受骨や親骨)のリンク機構を使って「ヨコの力」に変換し、生地を外側に押し広げています。
問題の最終局面: 傘が開ききる直前、骨格(特に受骨と親骨)はほぼ一直線に近い角度になります。
ここで、「腕立て伏せで、肘を伸ばしきる直前が一番キツい」のを想像してみてください。
肘が90度の時は楽に体を支えられますが、170度のようにほぼ伸びきった状態から最後の「ひと押し」で体を持ち上げるのは、非常に大きな力がいりますよね。
傘も同じです。骨がほぼ一直線に近づくと、あなたの「タテの力」は、生地を「ヨコに広げる」力にうまく変換されなくなってしまいます。力のほとんどが骨を縮める方向(圧縮する力)に使われてしまい、「力の伝達効率」が極端に悪くなるのです。
この「最も効率が悪い角度」で、次に説明する「最大の抵抗」が発生するため、あの「硬さ」が生まれます。
傘を開く最後の瞬間は、理由①の「最も力が伝わりにくい角度」であると同時に、傘の部品が「最も頑張っている瞬間」でもあります。
生地の「張り(張力)」が最大になる 傘を開く動作の95%は、実は生地の「たるみ」を取っているだけです。最後の数ミリで、初めて生地そのものを物理的に「引き伸ばす」ことになります。生地は元に戻ろうと強く抵抗します(これが「張り」です)。この抵抗力が、最後の瞬間に最大になります。
全部品の「摩擦力」が最大になる 多段式のコンパクト傘は、構造が複雑なため、中棒の伸縮部や骨の関節(ダボ)など、摩擦が発生する箇所が数十カ所にも及びます。 普段は小さな摩擦ですが、上記の「生地の張り」と理由①の「力の非効率さ」によって、傘の骨格全体にものすごい内部圧力がかかります。 この圧力が、すべての関節や滑動部をギューッと押し付け、摩擦力を劇的に増大させるのです。
そして、これらの巨大な抵抗力(非効率な角度+生地の張り+最大摩擦)と戦いながら、最後に乗り越えなければならないのが、「カチッ」と鳴るロック部品(上はじき)です。
この部品にはバネが内蔵されており、これを押し縮めて乗り越えなければなりません。
つまり、ユーザーの皆様は、 「(理由①)最も力が伝わりにくい角度で、 (理由②)最大になった生地の張力+最大になった摩擦力に耐えながら、 (理由③)さらにロック用のバネを押し込む」 という、3つの壁に同時に打ち勝つ必要があるのです。
これが、あの「最後のひと押しの硬さ」の正体です。
※商品により構造が異なる場合があります
「じゃあ、欠陥じゃないか!」と思われるかもしれませんが、そうではありません。 この現象は、「収納時の圧倒的な短さ・小ささ(携帯性)」を最優先するために、工学的に選択された設計の「トレードオフ(代償)」なのです。
小さくたたむ → 関節や伸縮部を増やす必要がある
関節が増える → 摩擦が増え、複雑なリンク機構になる
結果 → 開ききる瞬間の幾何学的な効率が悪くなり、力が必要になる
この物理法則を理解した上で、AMVELでは低摩擦の素材を選んだり、ロック部品のバネ圧を精密に調整したりすることで、できる限りその「硬さ」を軽減する設計努力を続けています。
コンパクト傘の特性を理解し、ご自身のライフスタイルに合った一本を見つけるために、ぜひ前回の記事もあわせてご覧ください。
→ 前回の記事:バッグが小さい派必見!コンパクト折りたたみ傘の「本当の使い勝手」を徹底解説
アンブレラ・ジャーナル | THE UMBRELLA JOURNAL
執筆者:辻野義宏(つじのよしひろ) アンベル株式会社 CEO。30年以上に渡って傘の開発および研究を続けている。革新的な機能を追求し続ける日本の傘ブランド「AMVEL (アンベル) 」では、時代によって変化するベストを追求し、最先端の技術を駆使した傘をお届けしています。